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熱処理とは一口に云えば〔赤めて〕、〔冷やす〕操作であり、この加熱、冷却によって目的とする特性を得る、つまり、体質改善作業といえるでしょう。体質改善には種々な方法がありますが、一般的には(1)焼なまし、(2)焼ならし、(3)焼入れ、(4)焼戻しの4つの方法があります。この4つの大きな目的は、 1)焼なまし(A):軟化・・・・軟らかくする。 2)焼ならし(N):強化・・・・強くする 3)焼入れ (Q):硬化・・・・硬くする 4)焼戻し (H):じん化・・・粘くする です。これらの目的を達するためには種々なルールがあります。 (1)赤め方(加熱方法) 加熱方法には温度、速度、時間の3つがあります。加熱温度はA1変態点の上か下かで全く熱処理の内容が異なり、得られる特性も異なります。A1変態点の上で加熱するのが焼なまし、焼ならし、焼入れで、変態点以下の温度で加熱するのが焼戻しです。なお、焼入れにはA3又はAcm変態点以上に加熱し、完全なオーステナイト状態から焼入れする1相焼入れ、A1とA3変態点の中間から焼入れする2相焼入れがあります。 (2)赤める速度(加熱速度) 加熱速度はゆっくりな場合と急速な場合とがあります。一般的な熱処理ではゆっくり加熱ですが、表面のみを体質改善する高周波焼入れ、炎焼入れ、レーザ焼入れなどの表面硬化焼入れは急速加熱です。 |
熱処理の種類 |
熱処理方法を大きくわけると、一般熱処理と表面熱処理の2つがあります。一般的な熱処理は、部品全体を加熱し、冷却して全体を体質改善する処理ですが、表面熱処理は、部品の表面のみを加熱して、表層だけを改質する方法と、全体を加熱し、表層のみを改質する2つの方法があります。以下これらの処理について概略解説しましょう。 |
(3)加熱時間 |
加熱時間は一般的に昇温時間と保持時間の合計ですが、特に保持時間の方が大切です。つまり、処理品の内外部が同一温度になってから、どの程度保持するかが重要なファクターです。パーライト系の構造用鋼などは、オーステナイト中に容易に炭化物が固溶するため0時間で良いが、カーバイト系(SUJ、SKS、SKD、SKHなど)の材料は、固溶に時間がかかるため、十分保持時間を取る必要があります。 なお、焼戻しにおいては、析出現象ですから最低でも60分は必要でしょう。この場合の時間は保持時間で昇温時間ではありません。温度計に現れる温度は炉温であり、部品の温度ではないので注意して下さい。 |
(4)冷却方法(冷やす温度範囲) |
冷やし方にもルールとキーポイントがあります。表10は冷やし方と熱処理の種類を示したものです。ルールは〔必要な温度範囲を冷やすだけ〕、〔必要な速さで冷やす〕この2つです。必要な温度範囲には2つあります。加熱温度(TA)から赤い火色が消える温度(約550℃)までの範囲、つまり、加熱温度から前述したAr′変態までの温度範囲と、約250℃以下の温度範囲、つまり、Ar″変態以下の温度範囲です。いずれの場合も焼入れには重要な温度範囲です。前のAr′までの温度範囲は、焼が入って硬くなるかならないかの運命が決まる温度範囲で、臨界区域とも云っています。つまり、この温度範囲を速く冷やせば硬くなる運命が決まり、ゆっくり冷やせば硬くならない大切な温度範囲です。もう1つのAr″以下の温度は、焼割れや焼入ひずみなどが生ずる危険性のある温度範囲で、別名危険区域と呼んでいます。 次に必要な速さで冷やすというルールです。つまり、焼なましはゆっくり(炉冷)、焼ならしはやや速く(空冷)、焼入れは速く(水冷、油冷、ガス冷)冷やすことが大切なのです。焼戻しは処理する材料によって異なります。ある程度軟らかくし、じん性を得たい場合は急冷し、硬さを必要とする場合には徐冷をします。 |
(5)冷却方法(冷やし方の3タイプ)
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加熱温度から冷やす場合、3つのタイプがあります。1つは冷たくなるまで連続的に冷やす方法(連続冷却)、2つ目は冷却の途中で冷却速度を変える方法(二段冷却)、3つ目は冷却に塩浴や金属浴を用い、等温保持後冷却するやり方(等温冷却)です。連続冷却は一般的な方法であり、二段冷却は現場的には応用範囲が広く、また、等温冷却も時間の短縮や品質の安定性に効果的な方法です。 |